タイムスリップ! 夏祭り
今年、実家に帰省した時の事です。
実家に向かう途中、実家の近くの通りを車で通りました。その時、夏祭りの出店の準備をしていました。
お祭りの山車が出ていたり、出店の準備をしていたり、提灯を飾っていたり、と、とても賑わいを感じました。
「あ・・お祭りの準備してるね」
「俺行きたい!」
私のつぶやきに、息子は真っ先に反応しました。
正直、私は人込みが嫌いで、夏祭りはいきたくなかったのです。けれど、息子の「お祭り行きたい!」の言葉に負けて、その日の夜、息子の手を引いてお祭りをしている通りへと向かいました。
その通りは、私が子供のころは、にぎわった商店街でした。でも今は、近くの工場や大きな会社が閉鎖し、そこに勤めていた人もこの地を離れ、子供の数も減って、商店街はコンビニとドラッグストアへと姿を変えていました。
このお祭りも、もともとは商店街の人たちの出店が大半で、顔見知りのおじさんやおばさんが、かき氷や焼き鳥を売っていました。けれど今は、商店街ではない出店が軒を連ねていました。
それでも息子は、そのお祭りの雰囲気が嬉しいのか、はしゃいで出店を廻っていました。
そんな中、出店の端の方に、他の出店とは違う出店がありました。
「◎〇幼稚園PTA」
手作りののぼりにはそう書いてありました。そののぼりを見た途端、私は足を止めていました。
その幼稚園は、昔、私が通っていた幼稚園でした。そこのPTAの方たちが、出店を出していたのです。
その幼稚園は、私が通っていた頃から40年が過ぎた今でも、閉園になることもなく、続いていたのです。
周りの商店街が消えて、人もいなくなったのに。
他にも幼稚園があって、閉園になってもおかしくない環境なのにもかかわらず、です。
出店では、かき氷とフルーツ白玉、焼きそばを売っていました。出店の前では、若いママたちがおそろいのTシャツを着て、声を張り上げています。その横の方では、パパたちが、大きな鉄板で焼きそばを作ったり、かき氷を作ったりしていました。
妙な懐かしさが過りました。
それは、私が幼稚園に通っていた頃の思い出。母に手を引かれて、何の悩みもなく能天気に笑っていられた頃の思い出。
それと、今から数年前、息子が幼稚園に通っていた頃の思い出。息子が幼稚園に通っていた頃も、私はこんな風に、バザーや夏祭りでほかのママさんと一緒に出店を出していました。
“収益金は、子供のために使わさせていただきます”
という事が決まっていたし、ここで収益を多く出せば、例えば卒園式の時の、PTAから園児への贈り物がちょっといいものになったり、秋に開催される幼稚園内の秋祭りで、いろいろ子供に便宜を図れる・・・という事で、かなり頑張っていました。
お祭りは夜だけれど、朝から焼きそばの準備をしたり、フランクフルトの準備をしたり、使い慣れないかき氷の機械に四苦八苦したり・・・当時の思い出が過りました。
今、目の前にいる、私が卒園した幼稚園のPTAの人たちも、ここでの収益で、子供達に何かしてあげるんだろうなぁ…
そう思うと、どこか懐かしいような、温かい気持ちになりました。
「すいませーん! かき氷一つください」
気が付くと、私はその幼稚園の出店でそう言っていました。
すると、私よりずっと若いママが、真っ赤なシロップのかかったたっぷりのかき氷を、「どうぞ」と手渡してくれました。その手には、冷たそうなかき氷がいっぱいついていました。
そんな姿を見た瞬間、何かがはじけた気がした。
「私、◎〇幼稚園、卒園したんですよ」
気が付いたら、口からそんな言葉が出ていました。
「あ、本当ですか?」
その人も嬉しそうにそう言ってくれました。
「今から40年位前なんですけどね」
“40年”。そう口に出してしまうと、すごく大昔に感じました。でも、不思議と、普段は思い出さないのに、あのころの事を鮮明に思い出すことが出来ました。
甘くて、どこか苦い思い出があとからあとから浮かび上がってきました。
「あ、私もそうなんですよ!」
私にかき氷を手渡してくれた若いママにそういわれて、私は目を丸くしました。つまり今目の前にいるこの若いママは、あの幼稚園の、私から何代か後の後輩、という事です。
びっくりして、その人の顔を改めてみると、その人は、とても人懐っこそうに笑っていました。
そして、
「ありがとうございました!」
と、私の手にお釣りを渡して、次のお客さんの対応を始めました。
・・・ほんの一瞬のやりとりでしたけど、私にとっては、妙に長く、心に残った気がしました。
今でも、あの幼稚園の建物も、遊具も、残っているのだろうか?
制服はあの頃と同じものなのでしょうか?
先生は、きっともう変わっているけれど、園庭に合ったあの桜の木は、まだ咲いている?
もしかしたら、園の建物も遊具も、新しいものになっているかもしれない。
制服だって、もっとかわいらしいものになっている筈。
あの桜の木だって・・・もしかしたらもう切り倒されているかもしれない。
それでも。
妙に懐かしい気持ちのまま、私は、かき氷を頬張りました。
かき氷は、心なしか、とても甘く、口の中でしゅわっと溶けて消えました。
